《フォン・レンバッハ家の自画像(独:Selbstbildnis mit Frau und Töchtern、英:Self-Portrait with Wife and Daughters)》は、ドイツの画家フランツ・フォン・レンバッハが1903年に手がけた油彩画で、現在はミュンヘンのレンバッハハウス美術館に所蔵されている。画家自身と2番目の妻ロロ・フォン・ホルンシュタイン、そして娘たちマリオンとガブリエーレを描いたこの家族肖像画は、実は写真を下敷きにして制作された、いわば「グループ・セルフィー」の絵画版とも言える1枚だ。今回はこの絵が生まれた経緯と、当時としては型破りだった写真の活用について見ていく。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作者 | フランツ・フォン・レンバッハ(1836〜1904) |
| 制作年 | 1903年 |
| 技法・素材 | 油彩・カンヴァス |
| 所蔵 | レンバッハハウス美術館(ミュンヘン) |
| 描かれた人物 | レンバッハ本人、妻ロロ、娘マリオンとガブリエーレ |
一言でいうと
写真のセルフタイマーを右手に忍ばせながら、画家自身が家族とともにカメラの前でポーズを取る。その1枚の写真をもとに描かれたこの絵は、絵画でありながら、実は当時最新のテクノロジーを駆使して作られた「家族写真」でもあった。
制作背景
「画家公」と呼ばれた成功者
レンバッハは、貴族や芸術家、実業界の著名人たちの肖像画を数多く手がけたことで知られ、その社会的地位の高さから「マーラーフュルスト(画家公)」と呼ばれていた。バイエルン王国のシュロープンハウゼンで、石工の親方の息子として生まれた彼は、その後めざましい成功を収め、ミュンヘンに壮麗な自邸(現在のレンバッハハウス美術館)を構えるまでになった。
借金返済のために写真を活用
レンバッハは自邸の建設に多額の借金を抱えており、できるだけ早く多くの収入を得る必要に迫られていた。そのため彼は、当時まだ新しい技術だった写真を肖像画制作の補助として活用するようになる。カメラをほとんど目立たせない形で使うことで、著名な依頼主たちの実際のモデル時間を大幅に短縮することができ、なかには写真だけをもとに一度もモデルに座らせずに完成させた作品もあったという。ただし彼は、画家としての評判を気にかけ、写真を用いていることを大っぴらにすることはなかった。
セルフタイマーを隠し持つ画家
この絵のもとになった写真は、レンバッハが妻と娘たちとともに撮影会に臨んだ際に撮られたものだ。画家は年上の娘マリオンのほうへ身を寄せながら、右手にリモートシャッターのボタンを隠し持っている。まさに現代の「自撮り」を思わせるこの1枚の写真が、1903年に完成した有名な家族肖像画の下敷きとなった。
見どころ

眼鏡をかけた画家自身の姿
画面左には、白い顎髭と眼鏡をたたえたレンバッハ自身が描かれている。厳格そうな表情のなかにも、家族を見守るような柔らかさがにじんでいる。
娘マリオンへ身を寄せる仕草
画家は年上の娘マリオンのほうへ体を傾けており、この身振りが家族の親密さを画面全体に伝えている。写真の構図をそのまま絵画に移し替えたこの姿勢には、演出された「自然さ」が漂っている。
妻ロロと幼い娘ガブリエーレ
画面右には、妻ロロ・フォン・ホルンシュタインが幼い娘ガブリエーレに寄り添う姿が描かれている。母娘の柔らかな表情が、画家の厳めしい佇まいとは対照的な温かみを添えている。
写真的な構図の痕跡
この絵の構図には、実際の写真撮影から生まれた特有の配置やポーズの硬さがうかがえる。伝統的な肖像画の慣習とは異なる、スナップショットならではの偶発的な瞬間の切り取りが、絵画のなかにそのまま息づいている。
実際に見るには
本作はミュンヘンのレンバッハハウス美術館の、格式ある展示室に飾られている。もともとレンバッハ自身の邸宅だったこの建物には、彼の他の代表作も数多く収蔵されており、あわせて見ることで彼の画業の全体像を知ることができる。
よくある誤解
この絵はしばしば「伝統的な手法で描かれた家族の肖像画」として鑑賞されがちだが、実際には当時最先端だった写真という技術を巧みに利用して制作された作品である。レンバッハ自身がこの手法をあまり公にしなかったこともあり、絵画としての完成度の裏にある写真という下敷きの存在は見過ごされやすい。
FAQ
Q. 《フォン・レンバッハ家の自画像》はどこで見られますか?
ミュンヘンのレンバッハハウス美術館に所蔵されている。
Q. この絵に描かれている人物は誰ですか?
画家自身と2番目の妻ロロ・フォン・ホルンシュタイン、娘マリオンとガブリエーレである。
Q. この絵はどのように制作されましたか?
レンバッハがセルフタイマーを使って家族と撮影した写真をもとに、絵画として描き上げられた。
Q. なぜレンバッハは写真を利用したのですか?
自邸建設のための借金返済を急ぐ必要があり、依頼主のモデル時間を短縮するために写真を制作の補助として活用した。
Q. この絵はいつ制作されましたか?
1903年に制作された。
まとめ
《フォン・レンバッハ家の自画像》は、当時最新の写真技術を巧みに活用しながら、伝統的な肖像画の枠組みのなかに家族の親密な一瞬を封じ込めた1枚だ。リモートシャッターを隠し持つ画家の右手には、成功と借金のはざまで生きた「画家公」の、実利的でありながら人間味あふれる工夫が宿っている。
