《タウベ》とは|「鳩」という名の飛行機が奪った、幼い命を追う

石畳の上に、小さな少年の遺体が横たわっています。周りには爆風で吹き飛ばされた石畳の破片が散乱していますが、それを引き起こした襲撃者の姿はどこにも描かれていません。《タウベ》(1916年)は、イギリスの画家C.R.W.ネヴィンソンによる油彩画で、ロンドンの帝国戦争博物館(IWM)が所蔵しています。第一次世界大戦下、ネヴィンソン自身が実際に目撃した光景をもとに描かれた、静かな告発の一枚です。

目次

基本情報

作者:C.R.W.ネヴィンソン(1889〜1946)
制作年:1916年
技法・素材:油彩・カンヴァス
所蔵:帝国戦争博物館(IWM、ロンドン)
主題:ドイツの偵察機「タウベ」による空爆で命を落としたベルギー人の少年
様式:未来派の影響を受けたモダニズム

一言でいうと

《タウベ》は、ドイツ軍機による爆撃で命を落とした一人の幼い少年の遺体を、静かな街角の石畳の上に描いた作品です。攻撃を仕掛けた飛行機自体は画面のどこにも描かれておらず、この不在そのものが、戦争の暴力性を静かに、しかし痛烈に物語っています。

制作背景

ネヴィンソンは第一次世界大戦が勃発した1914年、良心的な平和主義者としてフレンズ救急隊に志願し、ダンケルクで救急車の運転手を務めました。彼はこの体験の中で、実際に空爆の犠牲となった子どもの姿を目にしています。後年の自伝『絵画と偏見』の中で、彼はこの出来事を「ダンケルクは航空爆撃を受けた最初期の街の一つであり、私はそれによって命を落とした子どもを目にした最初期の一人だった」と綴り、「その少年は私の目の前に横たわっていた。それは、これから起こるすべてのことを象徴する存在だった」と記しています。

タイトルにある「タウベ」とは、ドイツ語で「鳩」を意味する言葉で、鳥の翼を思わせる湾曲した形状を持つドイツの偵察機の通称でもありました。この機体は本来偵察を主任務としていましたが、操縦席から爆弾を投下することもできました。

見どころ

描かれない襲撃者

この絵の最大の特徴は、少年を殺した飛行機とその操縦者が、意図的に画面の外へと排除されている点です。攻撃者は視界の外、物理的にも感情的にも遠く離れた場所に存在しており、自らの攻撃の結末を目撃することも、それを制御することもありません。

無防備なまま横たわる姿

少年は石畳の上に大の字になって倒れ、何一つ守るもののないまま横たわっています。彼の死は、攻撃そのものにとっても、戦争全体にとっても、取るに足らない付随的な出来事として扱われてしまう――そうした冷酷な現実が、この構図には込められています。

個人ではなく戦争そのものへの断罪

この絵が向けている非難の矛先は、特定の操縦士個人にあるのではありません。国家総力戦という戦争の形態と、技術の発達によってほとんどあらゆる標的が攻撃可能になり、それが正当化されてしまう戦争の手段そのものに向けられています。

評価と受容

1916年9月、ネヴィンソンの作品を集めた展覧会が開かれた際、この絵をはじめとする作品群が、当時の戦時プロパガンダ局を率いていたチャールズ・マスターマンの目に留まりました。マスターマンはネヴィンソンを説得し、彼は正式にイギリス政府の従軍画家として西部戦線へ派遣されることになります。当時の批評家たちは、純粋な未来派の様式は人間の悲劇を表現するには不適切だと考える傾向がありましたが、機械化された戦争を強調するネヴィンソンの航空機を主題にした作品群は、むしろ高い評価を受けました。ネヴィンソンはこの他にも、ダンケルク上空でのタウベ追跡を描いた《サムソン司令官に追われるタウベ》(1915年)など、同じ機体を主題にした作品を複数手がけています。

よくある誤解

誤解①「この絵には爆撃を行った飛行機の姿が描かれている」→ 実際は襲撃者の姿は画面から意図的に排除されている
「タウベ」という題名から、その機体が画面に描かれていると思われがちですが、実際にはこの絵に描かれているのは攻撃の結果だけであり、加害者である飛行機とその操縦士の姿はどこにも見当たりません。

誤解②「この絵は特定の操縦士個人の残虐性を告発している」→ 実際は戦争という仕組みそのものへの批判である
一人の攻撃者への非難のように読めますが、実際にはこの絵が問いかけているのは、誰が引き金を引いたかということよりも、民間人までもが標的になりうる近代戦争の構造そのものです。

FAQ

Q. 《タウベ》とはどんな作品ですか?
A. ネヴィンソンが1916年に手がけた油彩画で、ドイツの偵察機タウベによる空爆で命を落とした少年の遺体を、石畳の街角に描いています。帝国戦争博物館が所蔵しています。

Q. なぜ「タウベ」という題名なのですか?
A. ドイツ語で「鳩」を意味するこの言葉は、鳥の翼のような湾曲した形状を持つドイツの偵察機の通称で、この機体からの爆撃が少年の死をもたらしたことに由来しています。

Q. なぜ攻撃した飛行機は画面に描かれていないのですか?
A. 加害者が被害の現場から物理的にも感情的にも遠く離れた存在であることを強調し、戦争という仕組みそのものへの批判を際立たせるための意図的な構図だと考えられています。

Q. 《タウベ》はどこで見られますか?
A. イギリス・ロンドンの帝国戦争博物館が所蔵しています。

まとめ

ネヴィンソン自身が「これから起こるすべてのことを象徴する存在だった」と語ったこの少年の姿は、飛行機という新しい兵器がもたらした戦争の形そのものを予告していました。攻撃者を画面から締め出すという選択によって、この絵は特定の誰かへの怒りではなく、戦争という仕組みそのものへの静かな告発として、100年以上を経た今も見る者に重くのしかかってきます。

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