《ダダ・バーゲルトの描写としての典型的な垂直の混乱》とは|自らをミロのヴィーナスに接ぎ木した、ダダの自画像を徹底解説

《ダダ・バーゲルトの描写としての典型的な垂直の混乱》(1920年)は、ケルン・ダダを代表する芸術家ヨハネス・テオドール・バーゲルトによるフォトモンタージュ作品で、チューリッヒ美術館(クンストハウス・チューリッヒ)版画素描室が所蔵する作品です。古代彫刻《ミロのヴィーナス》の胴体に、自分自身の若々しい顔を接ぎ木したこの奇妙な自画像は、第一次世界大戦がもたらした身体の喪失と、性の境界そのものを揺さぶる、ダダ独特の破壊的なユーモアを体現した一枚です。

目次

基本情報

項目内容
作者ヨハネス・テオドール・バーゲルト(本名アルフレート・エマヌエル・フェルディナント・グリューンヴァルト、1892〜1927)
制作年1920年
技法・素材フォトモンタージュ(ゼラチン・シルバープリント+ハーフトーン印刷、加筆、厚紙貼付)
サイズ約37×27.5cm
所蔵チューリッヒ美術館(クンストハウス・チューリッヒ)版画素描室
所属ケルン・ダダ
主題ミロのヴィーナスの胴体を借りた画家自身の自画像

一言でいうと

《ダダ・バーゲルトの描写としての典型的な垂直の混乱》は、古代ギリシャの傑作《ミロのヴィーナス》の写真を土台に、その首から上だけを自分自身の若々しい顔のポートレートへと差し替えるという、極めて奇矯な自画像でありながら、第一次世界大戦の従軍経験を持つ画家自身を、四肢を失った「切断された身体」として、また女性化された古典的な理想像として描くことで、戦争と性の両方の境界を攪乱してみせた、ダダ独特の一枚です。

制作背景

バーゲルトは、裕福な保険会社重役の息子として生まれ、本名アルフレート・グリューンヴァルトを名乗っていましたが、ドイツ語で「現金」を意味する「バーゲルト」という風刺的な芸名を採用しました。彼はほぼ独学で美術を学び、詩とフォトモンタージュに強い関心を寄せており、ケルンにおいてマックス・エルンストの最も緊密な協力者として活動し、エルンストの初期の活動資金の一部を援助してもいました。

この作品は、《ミロのヴィーナス》として知られる古代ギリシャ彫刻(両腕を失った姿で知られ、パリのルーヴル美術館が所蔵する)の複製写真の上に、バーゲルト自身の顔写真を貼り重ねるという手法で制作された自画像です。彼の若い顔は、兵士の軍帽を思わせるバイザー(ひさし)によって縁取られており、これはバーゲルトとエルンストの双方が従軍した第一次世界大戦への言及とされています。

見どころ

接ぎ木された身体: 女性の裸の胴体の上に、男性である画家自身の顔が違和感なく載せられており、両者の境目はほとんど分からないほど滑らかに融合しています。この身体と顔の不一致が、見る者に強い違和感と同時に、奇妙な統一感を与えています。

戦争と切断のモチーフ: MoMAのキュレーター、アン・アムランドは、この作品を「ある種の戦争告発」と評しています。バーゲルトは自らを、古典的な女性の姿として想像するだけでなく、両腕を失った「切断された身体」としても描き出しており、これは第一次世界大戦がもたらした身体の喪失というテーマ、そしてダダ全体を貫く主題の一つと深く結びついています。

自己神話化との緊張関係: この作品はまた、性愛化された女性の半神的な姿を画面の中心に据えているという点で、当時ダダの芸術家たちが盛んに行っていた、自己神話化・自己歴史化という身振りとも呼応しています。自らを古代の美の理想と同一化させながら、同時にその身体を欠損させるという、この二重の身振りに、この作品の複雑さがあります。

評価と影響

この作品は、1920年から21年にかけてトリスタン・ツァラが構想した国際的なメール・アート企画「ダダグローブ」への出品作の一つとしても知られています。この企画は当時実現には至りませんでしたが、2016年にニューヨーク近代美術館(MoMA)によって「ダダグローブ・リコンストラクテッド」展として再構築され、この作品も改めて注目を集めました。写真と彫刻という異なる媒体の交差を扱った展覧会などでも取り上げられており、ハンナ・ヘッヒやハーバート・バイヤーらのフォトモンタージュとともに、生身の身体と彫像との関係、そして第一次世界大戦後に揺らいだ身体という境界そのものを探る作品として、今日でも高く評価されています。

よくある誤解

誤解①「この作品は単なるユーモラスな悪ふざけとして制作された」→ 実際は戦争と身体の喪失という深刻なテーマを内包している
奇妙で滑稽な自画像として見られがちですが、実際にはこの作品には、バーゲルト自身が経験した第一次世界大戦とその惨禍、とりわけ四肢の切断という身体的な喪失への言及が込められています。

誤解②「バーゲルトはこの企画のためだけに一度限りこの手法を用いた」→ 実際は当時盛んだったフォトモンタージュという表現手法の一環である
この作品単体の突飛な思いつきと見られがちですが、実際にはフォトモンタージュはケルン・ダダやベルリン・ダダの芸術家たちが積極的に取り組んでいた表現手法であり、この作品もそうした潮流の中に位置づけられます。

FAQ

Q. 《ダダ・バーゲルトの描写としての典型的な垂直の混乱》とはどんな作品ですか?
A. バーゲルトが1920年に手がけたフォトモンタージュ作品で、《ミロのヴィーナス》の胴体に自分自身の顔を貼り重ねた自画像です。チューリッヒ美術館版画素描室が所蔵しています。

Q. なぜバーゲルトは自分の顔をミロのヴィーナスに合成したのですか?
A. 第一次世界大戦での従軍経験を踏まえ、自らを古典的な女性美の理想像であると同時に、四肢を失った「切断された身体」としても描くことで、戦争と性の境界を同時に攪乱する意図があったと解釈されています。

Q. バーゲルトとはどんな人物ですか?
A. 本名アルフレート・グリューンヴァルト、裕福な家庭に生まれケルン・ダダで活動した芸術家で、マックス・エルンストの最も緊密な協力者として知られています。

Q. 《ダダ・バーゲルトの描写としての典型的な垂直の混乱》はどこで見られますか?
A. スイス・チューリッヒのチューリッヒ美術館(クンストハウス・チューリッヒ)版画素描室が所蔵しています。

まとめ

《ダダ・バーゲルトの描写としての典型的な垂直の混乱》は、古代彫刻《ミロのヴィーナス》の胴体に、自分自身の若々しい顔を接ぎ木したという奇妙な自画像でありながら、第一次世界大戦がもたらした身体の喪失と、性の境界そのものを揺さぶる、ダダ独特の破壊的なユーモアを体現した一枚です。100年以上を経た今もなお、この作品は身体と自己同一性という、現代にも通じる問いを私たちに投げかけています。

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