《スルタンへの手紙を書くザポロージャのコサックたち》とは|11年をかけた大作に隠された偽文書疑惑を徹底解説

《スルタンへの手紙を書くザポロージャのコサックたち》(1880〜91年)は、ロシア写実主義を代表する画家イリヤ・レーピンによる油彩画で、サンクトペテルブルクのロシア美術館が所蔵する作品です。オスマン帝国のスルタンへ、下品な罵詈雑言に満ちた返書を、大笑いしながら書き上げるコサックたちを描いたこの絵は、11年もの歳月をかけて完成された大作でありながら、その題材となった手紙そのものの史実性については、今日でも歴史家の間で疑問が呈されています。

目次

基本情報

項目内容
作者イリヤ・レーピン(1844〜1930)
制作年1880〜91年(完成まで11年)
技法・素材油彩・カンヴァス
サイズ203×358cm
所蔵ロシア美術館(サンクトペテルブルク)
舞台(伝承)1676年、ザポロージャ・コサックとオスマン帝国の対立
購入者ロシア皇帝アレクサンドル3世(3万5000ルーブル)

一言でいうと

《スルタンへの手紙を書くザポロージャのコサックたち》は、オスマン帝国のスルタンからの服従要求に対し、外交儀礼を無視した下品な罵詈雑言に満ちた返書を、笑い転げながら書き上げるコサックたちの姿を描いた、痛快な民間伝承の一場面でありながら、レーピンが11年もの歳月をかけて完成させた大作であり、その題材となった手紙そのものの史実性は、今日でも歴史家の間で議論が続いている作品である。

制作背景

この絵が描く伝承によれば、1676年、ドニエプル川下流域に拠点を置いていたザポロージャ・コサックたちは、オスマン帝国軍との戦いに勝利しました。それにもかかわらず、スルタン・メフメト4世は、コサックたちにオスマン帝国への服従を要求する、大仰な自称に満ちた最後通牒を送りつけたと伝えられています。これに対し、指導者イヴァン・シルコに率いられたコサックたちは、通例の外交的な返答ではなく、悪態と卑猥な言葉遣いに満ちた手紙を書き送ったとされています。

この物語がレーピンのもとに届いたのは1870年代のことでした。エカテリノスラフ(現ドニプロ)在住のアマチュア民族学者ヤ・ノヴィツキーが、18世紀に書き写されたこの手紙の写本を発見し、歴史家ドミトロ・ヤヴォルニツキーに渡しました。ヤヴォルニツキーが客人たちの前でこの手紙を読み上げた際、その場に居合わせたレーピンがこの物語に強い興味を抱き、1880年、最初の習作に着手したと伝えられています。もっとも、多くの歴史家は、この手紙が実際に17世紀に書かれた本物の史料ではなく、18世紀に創作された風刺的な偽文書ではないかと見ています。

見どころ

構図:画面には、粗末な樽を机代わりに囲む十数人のコサックたちが描かれ、それぞれが個性豊かな表情で、次々と繰り出される罵り言葉に大笑いしています。中央でペンを取る書記役の男を中心に、パイプをくわえた指導者イヴァン・シルコをはじめ、より下品な言い回しを競い合うように提案し合う男たちの、活気に満ちた仲間意識が生き生きと表現されています。レーピン自身、コサックたちについて、作家ゴーゴリが書いたことはすべて真実であり、彼らほど自由・平等・友愛を深く体現した民族は世界のどこにもいないと、強い敬愛の念を語っていたと伝えられています。

制作にまつわる逸話:モデルの一人には、コサックの血を引くとされる当時の人気ジャーナリスト、ヴラジーミル・ギリャロフスキーが起用されました。レーピンは画面下部に、この絵の制作に費やした年月を書き記しています。

評価と来歴

この絵は完成後、ロシア皇帝アレクサンドル3世によって3万5000ルーブルという、当時のロシア絵画としては破格の金額で買い上げられました。1935年からはロシア美術館に所蔵されています。レーピンはこの絵の「より史実に忠実な」バージョンも別に手がけており、こちらは1932年にトレチャコフ美術館からハルキウ歴史博物館へ、1935年にはハルキウ美術館へと移されました。このバージョンは、規模や完成度の点でやや劣るとされ、非公式版と見なされています。この絵の主題は後世、フランスの詩人ギヨーム・アポリネールが詩を書くきっかけにもなったほか、数えきれないほどのパロディの題材にもなっています。

よくある誤解

誤解①「スルタンとコサックの手紙のやり取りは史実として確認されている」→ 実際は18世紀の風刺的な創作である可能性が高いとされている
具体的な日付や登場人物が伝わっていることから、これが史実に基づく実際の出来事だと思われがちですが、実際には多くの歴史家が、この手紙のやり取りは17世紀の本物の史料ではなく、18世紀に創作された風刺文書ではないかと考えています。

誤解②「この絵はレーピンが手がけた唯一のバージョンである」→ 実際はより史実性を意識した別バージョンも存在する
ロシア美術館の代表作として単独で語られることが多いため、これが唯一の作品だと思われがちですが、実際にはレーピンはより「史実に忠実な」バージョンも別に手がけており、こちらは現在ハルキウ美術館に所蔵されています。

FAQ

Q. 《スルタンへの手紙を書くザポロージャのコサックたち》とはどんな作品ですか?
A. レーピンが1880年から91年にかけて手がけた油彩画で、オスマン帝国のスルタンへ、罵詈雑言に満ちた返書を笑いながら書き上げるコサックたちを描いています。ロシア美術館が所蔵しています。

Q. この絵の題材となった手紙は実在するのですか?
A. 18世紀に書き写された写本は現存していますが、これが本当に17世紀のコサックによって書かれた本物の史料なのかについては、歴史家の間で意見が分かれています。

Q. なぜレーピンはこの絵の制作に11年もかけたのですか?
A. 多数の人物一人ひとりの表情や仕草を丹念に描き込む必要があったためで、モデルには実在の人物も起用されました。

Q. 《スルタンへの手紙を書くザポロージャのコサックたち》はどこで見られますか?
A. ロシア・サンクトペテルブルクのロシア美術館が所蔵しています。

まとめ

《スルタンへの手紙を書くザポロージャのコサックたち》は、オスマン帝国のスルタンからの服従要求に対し、外交儀礼を無視した下品な罵詈雑言に満ちた返書を、笑い転げながら書き上げるコサックたちの姿を描いた、痛快な民間伝承の一場面でありながら、レーピンが11年もの歳月をかけて完成させた大作であり、その題材となった手紙そのものの史実性は、今日でも歴史家の間で議論が続いている作品です。130年以上を経た今もなお、この絵は自由を愛する人々の反骨精神と痛快さを、私たちに伝えています。

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