ひろしま美術館(広島市中区)は、1978年、創業100周年を迎えた広島銀行が記念事業として設立した美術館です。「愛とやすらぎのために」というテーマには、原爆犠牲者への鎮魂の祈りと、平和への願いが込められています。ロマン派から印象派、ポスト印象派、エコール・ド・パリに至るまで、フランス近代美術を体系的に収集したこのコレクションは、私立美術館としては日本有数の質の高さを誇ります。本館の円形のドームは、実は広島を象徴するある建物をモチーフにしているのをご存知でしょうか。この記事では、この美術館の成り立ち、建築に込められた意味、そして代表的な所蔵作品までを解説します。
ひろしま美術館とは — 基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 開館年 | 1978年(昭和53年)11月3日 |
| 所在地 | 広島県広島市中区基町(広島市中央公園内) |
| 設立者 | 広島銀行(創業100周年記念事業) |
| テーマ | 「愛とやすらぎのために」 |
| 所蔵作品数 | 約300点(常時約80〜90点を展示) |
| コレクションの特徴 | ロマン派〜印象派〜エコール・ド・パリに至るフランス近代美術、日本近代美術 |
一言でいうと ひろしま美術館は、原爆によって一瞬にして廃墟と化した広島の地に、犠牲者への鎮魂の祈りと平和への願いを込めて設立された、「愛とやすらぎ」を体現する美の殿堂である。
美術館の背景 — なぜこの美術館が生まれたのか
「心の喜びとやすらぎの場」を求めて
1945年8月6日、原爆の劫火によって広島は一瞬にして廃墟と化しました。それから30数年、広島は平和文化都市の建設を目指して復興の道を歩んできましたが、その過程で久しく求められていたのが、「心の喜びとやすらぎの場」でした。1978年、その年に創業100周年を迎えた広島銀行が、地域とともに歩んだ歴史の記念事業として、10数年にわたる構想の末にこの美術館を開館させます。「愛とやすらぎのために」というテーマには、広島の礎となった原爆犠牲者への鎮魂の祈りと、平和への願いが込められているのです。
建築の見どころ — 二つの世界遺産をモチーフに
本館は円形のドーム型をしており、これは広島のシンボルである原爆ドームをイメージしたものです。そして本館を取り巻く回廊は、同じく世界遺産である厳島神社の回廊をイメージして造られています。広島を代表する2つの世界遺産的建造物を、あえて美術館という平和的な空間の建築モチーフに取り入れたこの設計には、悲劇の記憶を単に封印するのではなく、美と静けさの中に昇華させようとする意図が込められていると言えるでしょう。正面入口前の庭には、1980年、パブロ・ピカソの息子クロード氏から贈られたマロニエの木があり、毎年5月初旬頃にピンク色の花を咲かせます。この木にちなんで名付けられた「マロニエの泉」には、広島のシンボルでもある錦鯉が泳いでいます。
見どころ — フランス近代美術の系統的なコレクション
ひろしま美術館の最大の特徴は、ロマン派から印象派、ポスト印象派、フォーヴィスム、エコール・ド・パリに至るまで、19世紀から20世紀初頭のフランス近代美術の流れを、系統的に収集・展示している点にあります。
ロマン派から印象派まで
ドラクロワ、クールベ、ミレー、コロー、ブーダンといったロマン派・写実主義の画家たちから、マネ、モネ、ルノワール、シスレー、ドガ、ピサロら印象派の画家たちまで、幅広い作品を所蔵しています。

ポスト印象派と新印象主義
シニャック、スーラといった新印象派、ロートレック、ルソー、セザンヌ、ゴッホ、ゴーギャン、ルドン、ボナール、ヴュイヤール、ムンクといったポスト印象派・象徴主義の画家たちの作品も充実しています。


フォーヴィスムとピカソ、エコール・ド・パリ
デュフィ、ヴラマンク、マルケ、ルオー、マティスといったフォーヴィスムの画家たち、そしてピカソ、ドラン、ブラック、レジェら20世紀前衛美術の画家たちの作品も収蔵しています。さらにローランサン、ユトリロ、ドンゲン、スーティン、パスキン、モディリアーニ、シャガール、藤田嗣治(フジタ)、キスリングといった、1920年代パリに集った国際色豊かな「エコール・ド・パリ」の画家たちの作品群も見どころの一つです。
日本近代美術
浅井忠、黒田清輝、藤島武二、青木繁、岸田劉生、佐伯祐三ら日本近代洋画の秀作に加え、横山大観、下村観山、竹内栖鳳、上村松園、速水御舟、東山魁夷、平山郁夫といった日本画の名品も所蔵しています。
💡 ここに注目(編集部より) この美術館を訪れるときは、単に個々の名画を鑑賞するだけでなく、ロマン派から印象派、ポスト印象派、そしてエコール・ド・パリへと至る、19世紀から20世紀にかけての美術史の大きな流れそのものを、順を追って体感してみてください。これほど体系立てて西洋近代美術の変遷をたどれる私立美術館は、国内でも稀な存在です。
実際に訪れるには
広島市中区基町、広島市中央公園内にあります。広島電鉄「紙屋町東」「紙屋町西」電停から徒歩約5分、あるいは広島市内循環バス「ひろしまめいぷる〜ぷ」で「ひろしま美術館前(市民病院前)」下車すぐです。館内にはミュージアムショップ、ティールーム、ライブラリーも整備されています。マスコットキャラクターは、ゴッホにちなんだ「ゴッホ君」です。訪問前に公式サイトで開館時間や特別展の情報を確認することをおすすめします(最終確認日:2026年7月10日)。
よくある誤解
誤解①「ひろしま美術館は原爆をテーマにした展示を行う美術館である」→ 実際はフランス近代美術を中心とする一般的な美術館である
設立の背景に原爆犠牲者への鎮魂の祈りがあることから、原爆そのものをテーマにした展示を行う施設だと誤解されることがありますが、実際の常設展示は、ロマン派から印象派、エコール・ド・パリに至るフランス近代美術と、日本近代美術が中心です。原爆の記憶は、直接的な展示内容としてではなく、「愛とやすらぎ」という美術館全体の理念、そして建築デザインの中に、静かな形で込められています。
誤解②「本館の円形ドームは単なる装飾的なデザインである」→ 原爆ドームをモチーフにした、意味を持つ設計である
本館の印象的な円形ドームは、単に美しさやモダンさを追求した装飾的なデザインだと思われがちですが、実際には広島のシンボルである原爆ドームを明確に意識して設計されています。取り巻く回廊も厳島神社の回廊がモチーフとなっており、建築そのものが広島の記憶と祈りを体現しているのです。
FAQ
Q. ひろしま美術館とはどんな美術館ですか?
A. 1978年、広島銀行が創業100周年記念事業として設立した美術館です。「愛とやすらぎのために」をテーマに、フランス近代美術と日本近代美術を中心に約300点を所蔵しています。
Q. なぜこの美術館は「愛とやすらぎ」をテーマにしているのですか?
A. 1945年の原爆投下により廃墟と化した広島が、復興の過程で求め続けてきた「心の喜びとやすらぎの場」を実現するためです。原爆犠牲者への鎮魂の祈りと平和への願いが、このテーマに込められています。
Q. 本館の建物はどんな特徴がありますか?
A. 円形のドーム型をしており、原爆ドームをモチーフにしています。本館を取り巻く回廊は、厳島神社の回廊をイメージして設計されました。
Q. ひろしま美術館はどこにありますか?
A. 広島県広島市中区、広島市中央公園内にあります。広島電鉄「紙屋町東」「紙屋町西」電停から徒歩約5分です。
まとめ
ひろしま美術館は、原爆によって一瞬にして廃墟と化した広島の地に、犠牲者への鎮魂の祈りと平和への願いを込めて設立された、「愛とやすらぎ」を体現する美の殿堂です。原爆ドームと厳島神社の回廊という、広島を象徴する2つの建築をモチーフにした本館の中で、ロマン派から印象派、エコール・ド・パリに至るフランス近代美術の系統だったコレクションと向き合う——この体験そのものが、悲劇の記憶を美と静けさの中に昇華させようとする、この美術館の願いを体感させてくれるはずです。
