《真珠の首飾りの女》(1662〜64年頃)は、オランダ黄金時代を代表する画家ヨハネス・フェルメールによる油彩画で、ドイツ・ベルリンの絵画館(ゲメルデガレリー)が所蔵する作品です。窓辺の光を浴びながら、両手で黄色いリボンを持ち、真珠の首飾りを整える若い女性を描いたこの絵は、世界に30数点ほどしか確認されていないフェルメール作品の一枚であり、東西ドイツ分断という数奇な歴史をくぐり抜けてきた作品でもあります。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作者 | ヨハネス・フェルメール(1632〜1675) |
| 制作年 | 1662〜64年頃 |
| 技法・素材 | 油彩・カンヴァス |
| サイズ | 55×45cm |
| 所蔵 | 絵画館(ゲメルデガレリー、ベルリン国立美術館群) |
| 主題 | 身支度をする若い女性 |
一言でいうと
《真珠の首飾りの女》は、窓から差し込む柔らかな光を浴びながら、両手で黄色いリボンを持ち、真珠の首飾りを整える若い女性の一瞬を切り取った作品でありながら、世界に30数点ほどしか現存しないフェルメール作品の貴重な一枚であり、第二次世界大戦後の東西ドイツ分断によって長く引き離された末に、ようやくベルリンで再会を果たした複雑な来歴を持つ一枚である。
制作背景
フェルメールは、生涯を通じてわずか30数点の作品しか残さなかったとされる、寡作で知られる画家です。この絵に描かれた女性は、フェルメールの他の作品《恋文》や《手紙を書く女》にも同じモデルが登場しているとされ、彼が繰り返し同じ人物を描いたことがうかがえます。1696年の遺産目録には、この絵とみられる作品が「身支度をする、たいそう美しい若い婦人」と記され、63ギルダーという価格が付けられていたと伝えられています。
見どころ

構図:白い壁を背景に、黄色い毛皮縁取りの上着を着た女性が、テーブルと椅子の置かれた部屋の一角に立っています。彼女は両手で黄色いリボンを持ち上げ、身につけた真珠の首飾りを整えようとしている、まさにその瞬間を捉えています。画面には描かれていませんが、彼女は壁にかかっているはずの鏡を見つめているとされ、見えない鏡に向かって身支度をするという設定が、この絵に静かな親密さを与えています。
構成上の共通点:この絵の構図は、フェルメールが手がけた《手紙を読む青衣の女》や《天秤を持つ女》と共通する形式を踏襲していますが、リボンを持ち上げる腕の動きによって、より躍動感のある構成に仕上げられています。テーブルの上には、水差しや櫛、化粧用のブラシ、宝石箱といった、当時の身支度の道具が丁寧に描き込まれています。
署名:テーブルの縁には「IVMeer」というフェルメールの署名が記されていますが、今日ではテーブルの暗い色に紛れ、ほとんど判別できなくなっています。19世紀にフェルメールの再評価に大きく貢献した美術評論家テオフィル・トレ=ビュルガーは、この署名の存在ゆえに、この絵に特に強い関心を寄せたと伝えられています。
来歴
この絵は第二次世界大戦をめぐる複雑な歴史をたどっています。戦時中、ベルリンの美術館コレクションは疎開のため各地に移され、戦後はアメリカ軍が管理するヴィースバーデンの集積所を経て、1950年代初頭に西ベルリンのコレクションへと合流しました。一方、東ベルリン側にも別のコレクションが残されたため、この絵を含むベルリンの絵画館コレクションは、東西分断の間、長く分かれたままとなっていました。ベルリンの壁崩壊後、実に半世紀以上を経た1998年、東西のコレクションはようやく現在のゲメルデガレリー(絵画館)へと統合され、この絵も本来の姿でベルリンに戻ることとなりました。
よくある誤解
誤解①「フェルメールの作品は数多く現存している」→ 実際は世界に30数点ほどしか確認されていない
フェルメールの高い知名度から、相応の数の作品が現存していると思われがちですが、実際に彼の真筆と確認されている作品は世界にわずか30数点ほどにとどまり、《真珠の首飾りの女》はその貴重な一枚です。
誤解②「この絵は制作以来ずっとベルリンで平穏に展示され続けてきた」→ 実際は東西分断により長年引き離されていた
現在ベルリンの絵画館に収蔵されていることから、平穏な来歴をたどってきた作品だと思われがちですが、実際には第二次世界大戦後、ベルリンの美術品コレクションが東西に分かれた影響で、この絵を含む絵画館のコレクションも長く分断されたままとなり、統合されたのはベルリンの壁崩壊から10年近く経った1998年のことでした。
FAQ
Q. 《真珠の首飾りの女》とはどんな作品ですか?
A. フェルメールが1662年から64年頃に描いた油彩画で、窓辺で真珠の首飾りを整える若い女性の一瞬を描いています。ベルリンの絵画館(ゲメルデガレリー)が所蔵しています。
Q. 女性は何を見ているのですか?
A. 画面には描かれていませんが、壁にかけられているはずの鏡を見つめながら、身支度をしている場面だと考えられています。
Q. なぜこの絵はベルリンで分断された歴史を持つのですか?
A. 第二次世界大戦後、ベルリンの美術館コレクションが東西に分かれてしまったためで、この絵を含む絵画館のコレクションが再び一つに統合されたのは、ベルリンの壁崩壊後の1998年のことでした。
Q. 《真珠の首飾りの女》はどこで見られますか?
A. ドイツ・ベルリンの絵画館(ゲメルデガレリー、ベルリン国立美術館群)が所蔵しています。
まとめ
《真珠の首飾りの女》は、窓から差し込む柔らかな光を浴びながら、両手で黄色いリボンを持ち、真珠の首飾りを整える若い女性の一瞬を切り取った作品でありながら、世界に30数点ほどしか現存しないフェルメール作品の貴重な一枚であり、第二次世界大戦後の東西ドイツ分断によって長く引き離された末に、ようやくベルリンで再会を果たした複雑な来歴を持つ一枚です。360年以上前に描かれた、真珠の首飾りを整えるだけの何気ない一瞬が、今も色褪せずそこにあります。


