ミレイ《盲目の少女》とは|見えない目が感じ取る光と、見える目が見つめる虹

《盲目の少女》(1854〜56年)は、イギリスのラファエル前派を代表する画家ジョン・エヴァレット・ミレイによる油彩画で、バーミンガム美術館が所蔵する作品です。放浪の旅を続ける姉妹とみられる二人の少女が、雨上がりの草原に腰を下ろし、その背後には二重の虹がかかっています。この記事では、この絵が視覚障害という当時の社会問題にどう向き合ったのか、そして完成までに2年を要した制作の経緯を解説します。

目次

ミレイ《盲目の少女》とは|基本情報

項目内容
作者ジョン・エヴァレット・ミレイ
制作年1854〜56年
技法・素材油彩・カンヴァス
サイズ80.8×53.4cm
所蔵バーミンガム美術館、収蔵番号1892P3
ジャンル風俗画
モチーフ盲目の少女とその妹とみられる少女

一言でいうと 《盲目の少女》は、目の見えない少女と見える少女という対照的な姉妹の姿を通じて、視覚以外の感覚で世界を感じ取ることの豊かさを描き出した、ラファエル前派を代表する風俗画である。

制作背景|なぜこの作品は生まれたのか

2年をかけた制作

本作の風景部分は、1854年にミレイがサセックス州ウィンチェルシーを訪れた際に描き始められました。しかし作品が完成したのは2年後、ミレイがスコットランドのパースに移り住んでから、二人の人物像を描き加えたのちのことでした。盲目の少女のモデルは当初エフィー・ラスキン(のちのミレイ夫人)が務めていましたが、最終的にはマチルダ・プラウドフットに代わり、妹役はイザベラ・ニコルが務めています。

19世紀イギリスの社会問題として

本作は、19世紀イギリス社会が抱えていた放浪や障害という切実な問題、とりわけ子どもや若者の間でのそうした境遇を扱った作品としても理解されています。少女の首にかけられた札には「哀れみを、盲目の者に」という言葉が書かれており、二人が生計を立てるために各地を渡り歩く旅の音楽師であったことがうかがえます。

見どころ徹底解説

対照的な二つの感覚

本作は、盲目の姉と目の見える妹という対照的な二人を通じて、感覚の寓意として解釈されています。姉は自らの手で足元の草に触れ、太陽の暖かさを顔に受けながら、視覚以外の感覚を頼りに世界を感じ取っています。一方、妹は目を大きく開き、雨上がりに現れたばかりの珍しい二重の虹を見つめています。

科学的に修正された二重虹

本作が1856年に初めて展示された際、ある人物から、二重虹では内側の虹の色の並びが外側とは逆になるべきだと指摘を受けました。ミレイは当初、両方の虹を同じ色の順序で描いていましたが、この指摘を受けて科学的な正確さに合わせて描き直したことが知られています。この逸話は、ラファエル前派が自然観察の正確さをいかに重視していたかを物語っています。

肩にとまる小さな蝶

姉の肩の赤い肩掛けには、小さなタテハチョウが一羽とまっています。この蝶は、身じろぎもせず座り続ける姉の静止した姿勢を象徴する細部として描かれており、周囲の緻密に描き込まれた草花や虫たちとともに、ラファエル前派特有の徹底した自然観察の姿勢を伝えています。

評価と影響

本作はラファエル前派の中でも高く評価される作品のひとつであり、緻密な風景描写と鮮やかな色彩が特徴とされています。1892年、実業家でバーミンガム市長も務めたウィリアム・ケンリックによってバーミンガム美術館に寄贈され、同館のラファエル前派コレクションを代表する一枚となりました。背景に描かれたウィンチェルシーの村は、伝道者ジョン・ウェスレーが晩年、視力の衰えの中で最後の野外説教を行った土地としても知られています。

実際に見るには

イギリス・バーミンガム美術館の所蔵作品です(収蔵番号1892P3)。訪問前には開館日・展示状況を公式サイトで確認することをおすすめします。

よくある誤解

誤解①「二人の少女は最初から現在のモデルで描かれた」→ 制作途中でモデルが交代している

盲目の少女のモデルは、当初はエフィー・ラスキンが務めていましたが、最終的にはマチルダ・プラウドフットに交代しています。完成までに2年を要した制作過程で、モデルの変更を含むさまざまな調整が加えられました。

誤解②「虹の描写は最初から科学的に正確だった」→ 指摘を受けて描き直された

現在見られる二重虹の色の配置は、科学的に正確なものですが、これはミレイが当初描いていたものではありません。1856年の展示時に色の順序の誤りを指摘され、修正を加えた結果、現在の姿になっています。

FAQ

Q. 何が描かれていますか?
A. 雨上がりの草原に腰を下ろす、盲目の姉とその妹とみられる少女の姿です。背景には二重の虹と、ウィンチェルシーの村の風景が描かれています。

Q. 作者はどんな画家ですか?
A. ジョン・エヴァレット・ミレイ(1829〜1896)。イギリスのラファエル前派を代表する画家で、緻密な自然観察と鮮やかな色彩表現で知られます。

Q. なぜ二人は旅をしているのですか?
A. 少女たちは生計を立てるために各地を渡り歩く旅の音楽師とみられており、姉の首にかけられた「哀れみを、盲目の者に」という札が、彼女らの境遇を物語っています。

Q. どこで見られますか?
A. イギリス・バーミンガム美術館です。訪問前に公式サイトで開館状況を確認することをおすすめします。

まとめ

《盲目の少女》は、視覚を持たない姉と持つ妹という対照を通じて、感覚の豊かさそのものを描き出した作品です。目に見えない虹の存在を知ることなく、ただ足元の草の感触と太陽の暖かさに身を委ねる姉の姿には、視覚に頼らない世界の感じ方が、確かな説得力をもって表れています。

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