《ポーズの終わり》(1886年)は、ジャン=レオン・ジェロームによる油彩画で、彼が生涯にわたって展開した「彫刻家としての自画像」連作の記念すべき第一作です。モデルが、ポーズを終えたばかりの自らの彫像に布をかけている——この何気ない一場面には、モデルと彫像の分身関係、そして「見る」ことと「真実」をめぐる、ジェロームならではの深い問いが込められています。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作者 | ジャン=レオン・ジェローム(1824〜1904) |
| 制作年 | 1886年 |
| 技法・素材 | 油彩・カンヴァス |
| サイズ | 48.3×40.6cm |
| 所蔵 | 個人蔵 |
| 位置づけ | 「彫刻家としての自画像」連作の第一作 |
一言でいうと
《ポーズの終わり》は、モデルと彼女の彫刻された分身との関係を通じて、「見えるもの」と「真実」の境界を問い直した、画家兼彫刻家というジェロームの二重の顔を映し出す、記念碑的な連作の出発点である。
制作背景
ジェロームは、1870年代後半から本格的に彫刻家としての活動も始めていました。最初の彫刻作品は、自身の絵画《指し降ろされた親指》を基にしたブロンズ製の剣闘士像で、1878年の万国博覧会で公開されています。この彫刻家としての経験が深まるにつれ、ジェロームは絵画の中でも、自らのアトリエでの制作風景そのものを主題にした、一連の複合的な作品群を手がけるようになりました。《ポーズの終わり》は、その最初の作品にあたります。
見どころ

構図
画面奥では、片付けをするジェローム自身の姿がうかがえます。手前では、ポーズを終えたモデルが、自らの姿を写し取った彫像に布をかけて覆う様子が描かれています。モデル自身は、まだ何も身にまとっていません。
技法
剥製の鳥や模型の帆船といった、アトリエらしい小道具が丁寧に描き込まれる中、モデルと彫像が乗る木製の台の上には、一輪の赤いバラが置かれています。これは、モデルへの画家からの感謝の印だと考えられています。
図像学
この絵の核心は、生身のモデルと、その彫刻された「分身」との、微妙な差異にあります。実物とその複製という関係は、単なる制作過程の一場面を超えて、「見えるもの」の背後にある「真実」とは何かという、ジェロームが生涯を通じて追い続けたテーマへとつながっていきます。
評価と影響 — ピュグマリオンへの道
この「彫刻家としての自画像」というモチーフは、《ポーズの終わり》を出発点に、やがてジェロームの代表作の一つ《ピュグマリオンとガラテア》(1890年頃)へと発展していきます。これは、理想の女性を象牙で彫り上げた彫刻家ピュグマリオンが、その像に恋をし、女神アフロディテへの祈りの末、ついに彫像が生命を得るという、オウィディウスの『変身物語』に基づく神話です。ジェロームはこの主題を、当時の道徳的な基準の中でぎりぎり許容される構図(後ろ姿からの視点)で描き、大きな話題となりました。彫刻家としてのジェロームは、この後も《オンファレ》(1887年)、彩色大理石の《タナグラ》(1890年、サロンで大反響)など、絵画と彫刻を融合させる独自の探究を続けています。
よくある誤解
誤解①「この絵は単にアトリエの一場面を写し取っただけの作品である」→ 実際は「見ること」と「真実」を問う哲学的な連作の一部である
制作風景の何気ない一コマに見えますが、実際にはジェロームが生涯を通じて追求した、モデルと彫刻された分身との関係、そして「見えるもの」の背後にある真実という、深い哲学的テーマを扱う連作の出発点として位置づけられています。
誤解②「ジェロームは画家としてのみ活動し、彫刻は余技にすぎなかった」→ 実際は本格的な彫刻家としても高い評価を得ていた
ジェロームは30代から本格的に彫刻に取り組み、《オンファレ》や彩色彫刻《タナグラ》など、当時のサロンで大きな反響を呼んだ作品を数多く手がけています。画家としての顔と彫刻家としての顔、その両方を高い水準で兼ね備えていた芸術家でした。
FAQ
Q. 《ポーズの終わり》とはどんな作品ですか?
A. ジェロームが1886年に描いた油彩画で、モデルが自らの彫像に布をかける場面を描いています。「彫刻家としての自画像」連作の第一作です。
Q. なぜこの絵にバラが描かれているのですか?
A. モデルへの画家からの感謝の印だと考えられています。
Q. この絵はどのような作品に発展していったのですか?
A. モデルと彫像の関係というテーマは、後にジェロームの代表作《ピュグマリオンとガラテア》(1890年頃)へと発展していきました。
Q. ジェロームは彫刻家としても活動していたのですか?
A. はい。30代から本格的に彫刻に取り組み、《オンファレ》や彩色彫刻《タナグラ》など、サロンで大きな反響を呼んだ作品を残しています。
まとめ
《ポーズの終わり》は、モデルと彼女の彫刻された分身との関係を通じて、「見えるもの」と「真実」の境界を問い直した、画家兼彫刻家というジェロームの二重の顔を映し出す、記念碑的な連作の出発点です。この何気ないアトリエの一場面から、やがて《ピュグマリオンとガラテア》という神話的な傑作へと発展していく過程は、一人の芸術家の探究心が、いかに一つの主題を深めていくかを、静かに物語っています。
