《死と木こり》とは|ミレーが唯一落選した寓意画を徹底解説

《死と木こり》(1858〜1859年)は、ジャン=フランソワ・ミレーによる油彩画で、デンマーク・コペンハーゲンのニイ・カールスベルグ・グリプトテク美術館が所蔵する作品です。17世紀フランスの詩人ラ・フォンテーヌの寓話に着想を得たこの絵は、《落穂拾い》で名声を確立したミレーが、その直後のサロンで珍しく落選という憂き目にあった、数奇な運命をたどった作品です。

目次

基本情報

項目内容
作者ジャン=フランソワ・ミレー(1814〜1875)
制作年1858〜1859年
技法・素材油彩・カンヴァス
サイズ77×100cm
所蔵ニイ・カールスベルグ・グリプトテク美術館(デンマーク・コペンハーゲン)
着想源ラ・フォンテーヌの寓話「死と木こり」
経緯1859年サロン落選

一言でいうと
《死と木こり》は、17世紀フランスの寓話に着想を得て、ミレーが自身の画業でしばしば描き続けた「人生の憂鬱(無常)」という主題を、伝統的な寓意画の形式で表現した作品でありながら、その率直すぎる死の描写ゆえに、1859年のサロンで落選するという逆風にさらされた。

制作背景

この絵の主題は、17世紀フランスの詩人ジャン・ド・ラ・フォンテーヌが著した『寓話集』の一編「死と木こり」に基づいています。貧しさと重労働に疲れ果てた老いた木こりが、薪の重荷を背負いながら「死んでしまいたい」と嘆きます。すると本当に死神が現れ、彼を連れ去ろうとしますが、木こりは恐れをなし、「いや、ただ薪を背負うのを手伝ってほしかっただけです」と言い訳する、という物語です。人間が日々の苦しみを嘆きながらも、いざ死を目前にすると、なお生にしがみつこうとする様を、皮肉交じりに描いた寓話として知られています。

落選という逆風

1859年のサロンにミレーはこの《死と木こり》を出品しますが、落選という結果に終わりました(同じ年に出品したもう一点《牛に牧草を食べさせる農婦》は入選しています)。作家アレクサンドル・デュマや『ガゼット・デ・ボザール』誌はこの落選作を擁護しましたが、それまでミレーを支持してきた批評家テオフィル・ゴーティエはこの時批判に転じ、詩人シャルル・ボードレールも酷評しました。この落選により、ミレーは1853年のサロンで得ていた「無鑑査」(審査を経ずに出品できる資格)も失うことになりました。

見どころ

構図

画面には、白い布をまとった骸骨のような死神が、鎌を肩に担ぎながら、木こりに寄り添うように立っています。伝統的な農民の衣装をまとった木こりは、崩れ落ちるように膝をつき、背負っていた薪の束にしがみつくような姿で描かれています。

技法

ミレーの他の農民画に見られる写実的な色調はそのままに、死神という幻想的・寓意的な存在を、違和感なく同じ画面に溶け込ませている点が特徴的です。

図像学

美術史家の研究によれば、この絵は、ミレーがほとんど宗教的な感情を込めて、自身の作品で繰り返し描き続けた「人生の憂鬱(無常)」という主題を、伝統的な図像に則って表現したものだと解釈されています。《落穂拾い》や《晩鐘》に見られる、労働の尊厳への静かなまなざしとは異なり、この絵では死という主題そのものを、寓意的な人物像として直接的に描き出すという、ミレーにしては珍しいアプローチが取られています。

よくある誤解

誤解①「ミレーの作品はすべてサロンで高く評価されてきた」→ 実際は落選という挫折も経験している

《落穂拾い》や《晩鐘》の高い評価から、ミレーの作品はすべて順調に受け入れられてきたと思われがちですが、実際には《死と木こり》は1859年のサロンで落選しており、それまで彼を支持してきた批評家からも酷評されるという、大きな挫折を味わっています。

誤解②「この絵は単なる農民の日常を描いた作品である」→ 実際は寓意的な図像を用いた特殊な作品である

ミレーの作品というと、《落穂拾い》のような写実的な農民画がまず思い浮かびますが、この絵では死神という寓意的・幻想的な存在が直接描かれており、ミレーの画業の中でも特殊な位置を占める作品です。

FAQ

Q. 《死と木こり》とはどんな作品ですか?
A. ミレーが1858年から1859年にかけて制作した油彩画で、ラ・フォンテーヌの寓話に基づき、死神と木こりが向き合う場面を描いています。ニイ・カールスベルグ・グリプトテク美術館が所蔵しています。

Q. なぜこの絵は落選したのですか?
A. 明確な単一の理由は伝えられていませんが、詩人ボードレールをはじめとする批評家から酷評され、1859年のサロンで落選しました。

Q. ラ・フォンテーヌの寓話とはどんな話ですか?
A. 貧しさに疲れ果てた木こりが死を望みますが、実際に死神が現れると恐れをなし、薪を背負う手伝いを頼んだだけだと言い訳するという、人間の生への執着を描いた寓話です。

Q. 《死と木こり》はどこで見られますか?
A. デンマーク・コペンハーゲンのニイ・カールスベルグ・グリプトテク美術館が所蔵しています。

まとめ

《死と木こり》は、17世紀フランスの寓話に着想を得て、ミレーが自身の画業でしばしば描き続けた「人生の憂鬱(無常)」という主題を、伝統的な寓意画の形式で表現した作品です。《落穂拾い》での成功の直後にサロンで落選するという逆風は、名声を確立した画家であっても、常に評価が安定していたわけではないという、ミレーの画業の意外な一面を物語っています。

あわせて読みたい
ミレーとは|農民の尊厳を描き続けた「土の詩人」の生涯・代表作をわかりやすく解説 ジャン=フランソワ・ミレー(1814〜1875)は、19世紀フランスの画家で、バルビゾン派を代表する存在です。《落穂拾い》《晩鐘》《種まく人》——農村で働く人々の姿を、それ...
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次