《テ・レリオア(夢)》(1897年)は、フランスの画家ポール・ゴーギャンによる油彩画で、ロンドンのコートールド・ギャラリーが所蔵する作品です。彫刻を施した壁を背景に、眠る子どもを見守る二人の女性が描かれています。この記事では、この絵がなぜ画家自身によっても意味を明かされないまま残されたのか、そしてわずか10日で仕上げられたという制作の背景を解説します。
ゴーギャン《テ・レリオア(夢)》とは|基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作者 | ポール・ゴーギャン |
| 制作年 | 1897年 |
| 技法・素材 | 油彩・カンヴァス |
| サイズ | 95.1×130.2cm |
| 所蔵 | コートールド・ギャラリー(ロンドン)、収蔵番号P.1932.SC.164 |
| ジャンル | 象徴主義絵画 |
| タイトルの意味 | タヒチ語で「夢」または「悪夢」 |
一言でいうと 《テ・レリオア》は、眠る子どもを見守る二人の女性の場面を通じて、誰の夢なのかをあえて明かさないまま、見る者に解釈を委ねた象徴主義的な作品である。
制作背景|なぜこの作品は生まれたのか
人生最悪の年に描かれた一枚
本作が制作された1897年は、ゴーギャンにとって人生でもっとも過酷な年のひとつでした。同年4月、フランスで暮らす最愛の娘アリーヌが肺炎で亡くなったという知らせを受け取ります。同じ月には土地の売却によって住まいを追われ、経済的な苦境も重なっていました。こうした失意の中で、ゴーギャンは自らの畢生の傑作と位置づける大作《われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか》をこの年のうちに仕上げています。本作《テ・レリオア》は、同じ時期に手がけられた一連の野心的な作品群の締めくくりに位置づけられています。
船の出航待ちのわずか10日間
ゴーギャンは、友人ダニエル・ド・モンフレーへの手紙の中で、本作をわずか10日足らずで描き上げたと語っています。船の出航が遅れたことを利用して制作を進めたといい、その速さにもかかわらず、慎重に構成された画面構図と、画面全体を包む静謐な均衡は、決して即興的な仕上がりには見えません。本作は、同時期に描かれた《ネヴァーモア》と同じ船でフランスへと送られました。
見どころ徹底解説

誰の夢か、意図的に示されない構図
画面には、眠る子どもを見守る二人の女性が描かれています。しかし彼女たちの間に言葉や視線の交流はほとんどなく、その関係性はあえて曖昧なまま残されています。ゴーギャンは友人への手紙で「この画布に描かれているのはすべて夢だ。子どもの夢なのか、母親の夢なのか、道を行く騎手の夢なのか、それとも画家自身の夢なのか」と記しており、意味を確定させることを意図的に避けていたことがうかがえます。
ニュージーランドで出会った彫刻の記憶
背景の壁を飾る精緻な木彫りの装飾は、ゴーギャンが1895年、2度目のタヒチ行きの途上でニュージーランドに立ち寄った際、オークランド博物館で目にしたマオリの工芸品に着想を得たものとされています。特に、二体の人物像を持ち手とした木彫りの鉢が、本作では眠る赤子を抱く揺りかごの姿へと変換されており、実際の工芸品の記憶が絵画的に再構成されている点が興味深い特徴です。
ヨーロッパへ向けられたまなざし
本作に描かれたポリネシアの光景は、ヨーロッパの観客に向けて構成されたものでもありました。楽園のような異国のイメージを提示することは、当時の白人観客が抱いていた南洋への幻想を映し出す側面も持っており、ゴーギャンの作品を鑑賞する上では、こうした異国趣味的な視点についても留意する必要があります。
評価と影響
本作は、ゴーギャンからモンフレーの手を経て、1900年にはベジエの医師カルメルのもとに預けられ、1903年にはベジエの実業家ギュスターヴ・ファイエが購入しています。ファイエの死後は息子レオンが相続し、1928年に画商ポール・ローゼンバーグの手に渡ったのち、1929年に実業家サミュエル・コートールドが購入、1932年に彼からコートールド・インスティテュートへ寄贈されました。同時期の作品《ネヴァーモア》とともに、ゴーギャンのタヒチ時代を代表する作品として高く評価されています。
実際に見るには
ロンドンのコートールド・ギャラリーの所蔵作品です(収蔵番号P.1932.SC.164)。訪問前には開館日・展示状況を公式サイトで確認することをおすすめします。
よくある誤解
誤解①「タイトルの綴りは画中に正しく記されている」→ 実際にはスペルミスがある
画面下部にはタヒチ語で「夢」を意味する言葉が書き込まれていますが、正しくは「rereioa」と綴るべきところ、ゴーギャンは誤って「rerioa」と記しています。この綴りの誤りは今日まで作品名としてそのまま定着しています。
誤解②「即興的に描かれた気軽な作品」→ 綿密に構成された連作の締めくくり
わずか10日で完成したという逸話から、本作を即興的な作品と捉えられがちです。しかし実際には、その前の数ヶ月にわたってゴーギャンが手がけていた一連の野心的な作品群の集大成として位置づけられており、構図の緻密さもそれを裏付けています。
FAQ
Q. 何が描かれていますか? A. 精緻な木彫りの装飾がある部屋で、眠る子どもを見守る二人の女性の姿です。
Q. 作者はどんな画家ですか? A. ポール・ゴーギャン(1848〜1903)。フランスのポスト印象派を代表する画家で、タヒチをはじめとする南太平洋の島々を舞台にした作品で知られます。
Q. タイトルの「夢」とは誰の夢のことですか? A. ゴーギャン自身、子どもの夢なのか母親の夢なのか、あるいは画家自身の夢なのか、あえて明言していません。意味を確定させないことが、この作品の意図のひとつです。
Q. どこで見られますか? A. イギリス・ロンドンのコートールド・ギャラリーです。訪問前に公式サイトで開館状況を確認することをおすすめします。
まとめ
《テ・レリオア》は、娘の死と経済的困窮に見舞われた年に、わずか10日で仕上げられながらも、綿密に構成された象徴主義的な傑作です。誰の夢とも定まらないまま眠り続ける子どもの姿は、見る者それぞれの解釈に開かれたまま残されています。
