《ジュニエ爺さんの馬車》(1908年)は、素朴派を代表する画家アンリ・ルソーによる集団肖像画で、パリのオランジュリー美術館が所蔵する作品です。白馬に引かれた二輪馬車に乗る一家と、その傍らに佇む画家自身の姿が描かれています。この記事では、この絵がどのような友情から生まれたのか、そして写真をもとに描かれたにもかかわらずルソーがどのような変更を加えたのかを解説します。
ルソー《ジュニエ爺さんの馬車》とは|基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作者 | アンリ・ルソー |
| 制作年 | 1908年 |
| 技法・素材 | 油彩・カンヴァス |
| サイズ | 97×129cm |
| 所蔵 | オランジュリー美術館(パリ)、収蔵番号RF1960-26 |
| ジャンル | 集団肖像画 |
| モチーフ | ジュニエ一家と愛犬、そして画家自身 |
一言でいうと 《ジュニエ爺さんの馬車》は、税関職員として働きながら独学で絵を学んだルソーが、長年の友人一家への感謝を込めて手がけた、写真をもとにしながらも大胆な脚色を加えた集団肖像画である。
制作背景|なぜこの作品は生まれたのか
八百屋を営む友人一家
本作の中心人物、手綱を誇らしげに握る男性はクロード・ジュニエという実在の人物です。彼はバニューやヴェリエール゠ル゠ビュイソンの畑作農家から野菜を仕入れ、毎朝売り歩く八百屋を営んでいました。ジュニエは長年ルソーの友人であり、彼の妻はルソーに料理を振る舞うこともあったと伝えられています。ある時、ルソーはジュニエに借金をしており、ちょうどジュニエが誇りに思っていた新しい馬(名は「ローズ」)を購入したこともあって、その返礼としてルソーが絵を描くことになったといいます。
写真をもとに、しかし忠実にではなく
ルソーは本作を制作するにあたり、一枚の写真を参考にしたことが分かっています。しかし完成した絵は、写真をそのまま写し取ったものではありません。ルソーは構図や人物配置に重要な変更を加えており、そこには単なる記録を超えた、画家自身の作画意図がうかがえます。
見どころ徹底解説

一家と犬たち、そして画家自身
馬車に乗るのは、手綱を握るクロード・ジュニエ、その妻アンナ、姪、そして姪の娘です。傍らには3匹の犬と、堂々とした佇まいの馬ローズが描かれています。馬車の左手に立つ、麦わら帽子をかぶった人物はルソー自身であり、友人一家の輪の中に自らも加わることで、この絵に親密な記念写真のような性格を与えています。
静止したポーズが生む独特の緊張感
登場人物たちは、まるで写真撮影のポーズを取っているかのように、完全に静止し、無言のまま画面にとどまっています。この硬質な静けさは、遠近法を無視した平面的な背景の処理とあいまって、現実の記録でありながらどこか夢のような感触をこの絵に与えています。
奥行きを欠いた広がる風景
馬車と人物たちの周囲には、遠近感を欠いた木々と道が広がっています。専門的な美術教育を受けなかったルソーならではのこの空間処理が、写実的な正確さとは異なる、独特の魅力を生み出しています。
評価と影響
本作は1911年、独立芸術家協会のサロンに出品されました。その後、画商アンブロワーズ・ヴォラールの手を経て、1927年に画商ポール・ギヨームの所蔵となり、最終的にジャン・ワルテール゠ポール・ギヨーム・コレクションの一部として、1959年にルーヴル友の会の協力を得てフランス国家が買い上げ、現在のオランジュリー美術館に収蔵されました。ルソーの現存する肖像画の中でも、友人一家との親密な関係が色濃く反映された、貴重な一枚として位置づけられています。
実際に見るには
パリのオランジュリー美術館の所蔵作品です(収蔵番号RF1960-26)。ワルテール゠ギヨーム・コレクションの一部として、同館の常設展示で公開されています。訪問前には開館日・展示状況を公式サイトで確認することをおすすめします。
よくある誤解
誤解①「写真をそのまま絵にした作品」→ 構図や人物配置に重要な変更が加えられている
本作は実在の写真を参考にして描かれたことが分かっていますが、ルソーは完成作において構図や人物の配置に大きな変更を加えています。単なる写真の複写ではなく、画家自身の意図によって再構成された作品です。
誤解②「馬車に乗る全員がジュニエの家族」→ 麦わら帽子の人物はルソー自身
馬車に描かれた人々をすべてジュニエの家族と見てしまいがちですが、麦わら帽子をかぶって馬車の傍らに立つ人物は、画家アンリ・ルソー自身の姿です。友人一家の記念すべき一場面に、自らも加わる形で描き込まれています。
FAQ
Q. 何が描かれていますか?
A. 八百屋を営む友人クロード・ジュニエとその家族、愛犬たち、そして馬車の傍らに立つ画家ルソー自身の姿です。
Q. 作者はどんな画家ですか?
A. アンリ・ルソー(1844〜1910)。パリ市の税関職員として働きながら独学で絵を学んだ、素朴派を代表するフランスの画家です。
Q. なぜこの絵が描かれたのですか?
A. ルソーがジュニエに借金をしており、ちょうどジュニエが新しい馬を購入して誇りに思っていたこともあって、返礼として絵を描くことになったと伝えられています。
Q. どこで見られますか?
A. パリのオランジュリー美術館です。訪問前に公式サイトで開館状況を確認することをおすすめします。
まとめ
《ジュニエ爺さんの馬車》は、長年の友人一家への感謝の気持ちから生まれた、ルソーならではの温かみを湛えた集団肖像画です。写真という現実の記録をもとにしながらも、画家自身がそこに加わり、大胆な脚色を施したこの一枚には、素朴派の画家が友情という個人的な出来事をどう絵画に昇華させたかが表れています。
