《ほおずきの実のある自画像》とは|投獄の年に描かれた恋人との「対の肖像」を徹底解説

《ほおずきの実のある自画像》(1912年)は、オーストリアの表現主義画家エゴン・シーレによる油彩・板絵で、ウィーンのレオポルド美術館が所蔵する作品です。乱れた黒髪と鋭い眼差しを持つ画家自身の顔の傍らに、朱色に色づいたほおずきの実が添えられたこの絵は、シーレが恋人ヴァリー・ノイツィルの肖像画と対をなす形で手がけた、美術史上もっとも有名な「対の肖像画」の一組として知られる作品です。

目次

基本情報

項目内容
作者エゴン・シーレ(1890〜1918)
制作年1912年
技法・素材油彩・不透明水彩・板
サイズ約32.2×39.8cm
所蔵レオポルド美術館(ウィーン)
対をなす作品《ヴァリー・ノイツィルの肖像》(1912年、同館所蔵)
様式表現主義

一言でいうと

《ほおずきの実のある自画像》は、恋人ヴァリー・ノイツィルを描いた肖像画と対をなす形で手がけられた自画像でありながら、その制作年である1912年、シーレ自身が未成年者への性的暴行の疑いで拘束され、最終的に猥褻な素描の所持という別件で投獄されるという、彼の生涯でもっとも波乱に満ちた出来事のさなかに描かれた一枚である。

制作背景

1912年当時、シーレは恋人であり主要なモデルでもあったヴァリー・ノイツィルとともに、ウィーンから西へ約30マイル離れた小さな町ノイレンバッハで暮らしていました。しかし保守的なこの町では、結婚もせずに同棲する二人の存在自体が、地元住民から白い目で見られていました。同年、シーレのアトリエにたびたび出入りしていた地元の少女が、彼にウィーンへ連れて行ってほしいと頼んだことをきっかけに、シーレは誘拐と性的暴行の疑いで身柄を拘束されます。これらの重い容疑については最終的に無罪となったものの、アトリエにあった官能的な素描を地元の子どもたちが目にしていたことを理由に「風紀紊乱」の罪に問われ、シーレは24日間にわたり投獄されることになりました。

《ほおずきの実のある自画像》は、まさにこの激動の年に描かれた作品です。同じ年に手がけられた《ヴァリー・ノイツィルの肖像》とともに、二人の関係を象徴する対の肖像画として、今日でも並べて語られることの多い一組です。

見どころ

構図:画面右側には、乱れた黒髪と鋭い眼光を持つシーレ自身の顔と、黒い上着に包まれた肩から上の姿が大きく配置されています。画面左側には、乾いた白い背景を背にして、朱色に色づいたほおずきの実と、黄色く枯れかけた葉が、細い茎とともに描かれています。

技法:シーレの自画像の大きな特徴は、自らの身体を様々な形に歪め、変容させながら描くという手法にあります。ルネサンス以来、デューラーやヴァン・ダイク、レンブラントといった巨匠たちが自画像を重要な主題として手がけてきましたが、シーレはその伝統を受け継ぎながらも、自らの姿を落ち着いた威厳ある姿としてではなく、緊張感をはらんだ、時に痛々しいまでに率直な姿として描き出しました。この絵における、驚いたように見開かれた目と、やや開かれた唇の表現も、そうした彼独自の身体表現の一例といえます。

色彩とモチーフ:ほおずき(和名の由来にもなった、朱色の袋状の萼に包まれた実)は、乾いた白い背景の中で、唯一鮮やかな彩りを添える存在として配置されています。この植物的なモチーフと、生々しい心理描写に満ちた自画像との対比が、絵全体に独特の緊張感を生み出しています。

評価

《ほおずきの実のある自画像》は、レオポルド美術館が所蔵するシーレ・コレクションの中でも、とりわけ重要な作品の一つとして位置づけられています。2012年に同館で開催された回顧展「エゴン・シーレの変容」では、この絵と《ヴァリー・ノイツィルの肖像》が、美術史上もっとも有名な対の肖像画の一組として紹介されました。同展を監修したエリザベート・レオポルドは、シーレがしばしば自分自身をモデルとし、その身体を様々な形に変容させながら描いたことを指摘し、こうした自己表現の激しさは、それまでの自画像の伝統において類を見ないものだったと評しています。

よくある誤解

誤解①「この絵はシーレが単独で手がけた自画像である」→ 実際は恋人ヴァリーの肖像画と対をなす形で制作された
自画像という形式から、独立した単発の作品だと思われがちですが、実際にはこの絵は同じ1912年に手がけられた《ヴァリー・ノイツィルの肖像》と対をなす作品として制作されており、二人の関係を象徴する組み合わせとして、今日でも並べて論じられることの多い一組です。

誤解②「1912年はシーレにとって特に目立った出来事のない一年だった」→ 実際は逮捕と投獄という激動の年だった
穏やかな植物のモチーフが描かれていることから、この絵が平穏な時期に制作されたと思われがちですが、実際には1912年はシーレが誘拐・性的暴行の疑いで拘束され、最終的に猥褻な素描の所持という別件で24日間投獄されるという、彼の生涯でもっとも波乱に満ちた出来事が起きた年でした。

FAQ

Q. 《ほおずきの実のある自画像》とはどんな作品ですか?
A. シーレが1912年に手がけた油彩・板絵の自画像で、乱れた黒髪と鋭い眼差しを持つ自身の顔の傍らに、朱色のほおずきの実が描かれています。ウィーンのレオポルド美術館が所蔵しています。

Q. なぜほおずきが描かれているのですか?
A. 明確な象徴的意味は特定されていませんが、乾いた白い背景の中で唯一鮮やかな彩りを添える植物的なモチーフとして、生々しい自画像との対比を生み出しています。

Q. この絵と対をなす作品はありますか?
A. はい。同じ1912年に手がけられた恋人ヴァリー・ノイツィルを描いた《ヴァリー・ノイツィルの肖像》と対をなす作品とされ、美術史上もっとも有名な対の肖像画の一組として知られています。

Q. 《ほおずきの実のある自画像》はどこで見られますか?
A. オーストリア・ウィーンのレオポルド美術館が所蔵しています。

まとめ

《ほおずきの実のある自画像》は、恋人ヴァリー・ノイツィルを描いた肖像画と対をなす形で手がけられた自画像でありながら、その制作年である1912年、シーレ自身が未成年者への性的暴行の疑いで拘束され、最終的に猥褻な素描の所持という別件で投獄されるという、彼の生涯でもっとも波乱に満ちた出来事のさなかに描かれた一枚です。投獄中、彼が獄中日記に綴った「芸術は決して猥褻ではない」という言葉は、この鋭い眼差しの奥にある、当時の心境をそのまま映しているようです。

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