《ボア・レーン、リーズ》とは|カメラの力を借りた「独学の夜景画家」の代表作を徹底解説

《ボア・レーン、リーズ》(1881年)は、イギリス・ヴィクトリア朝時代の画家ジョン・アトキンソン・グリムショーによる油彩画で、彼の故郷でもあるリーズ・アート・ギャラリーが所蔵する作品です。雨に濡れた石畳に商店の明かりが黄金色に反射するこの夜景は、鉄道会社の事務員から独学で画家に転身したグリムショーが、生涯にわたって追求した「夜の都市」という主題の中でも、とりわけ親しまれてきた一枚です。

目次

基本情報

項目内容
作者ジョン・アトキンソン・グリムショー(1836〜1893)
制作年1881年
技法・素材油彩・カンヴァス
サイズ約61.2×91.6cm
所蔵リーズ・アート・ギャラリー(イギリス・リーズ)
舞台ボア・レーン(リーズ中心部の通り)
様式ヴィクトリア朝の都市風景画

一言でいうと

《ボア・レーン、リーズ》は、雨に濡れた石畳に商店の明かりが滲むように反射する、リーズの中心街の夜景を描いた作品でありながら、正規の美術教育を受けなかったグリムショーが、カメラ・オブスキュラという光学装置の力を借りながら、独学で確立した独自の画業を象徴する一枚である。

制作背景

ジョン・アトキンソン・グリムショーは、1836年にリーズで生まれ、24歳のときに大ノーザン鉄道会社の事務員という安定した職を辞め、両親の落胆をよそに画家の道を選んだ人物です。彼は正規の美術教育をまったく受けず、完全に独学で画業を築き上げました。その代わり、彼は自身の作図力や遠近法についての知識の不足を補うため、カメラ・オブスキュラやレンズを用いて風景を画面に投影する手法を、隠すことなく用いていたことで知られています。

彼が描いたボア・レーンは、リーズの中心部を走る通りで、1868年に大規模な拡幅工事が行われ、当時のヴィクトリア朝中産階級を惹きつける、市内でもとりわけ流行の最先端を行く商店が立ち並ぶ通りへと生まれ変わっていました。グリムショーはこうした都市の夜の情景を、生涯を通じて繰り返し描き続けた画家として知られています。

見どころ

構図:画面の両側には、商店の明かりが煌々と灯る建物が立ち並び、その光が濡れた石畳の路面に反射して、黄金色の帯となって手前へと伸びています。通りには傘をさして行き交う人々や、一台の馬車の姿も描かれ、当時の都市生活の息づかいが感じられます。

技法:この絵の最大の見どころは、商店のショーウィンドウからこぼれ落ちる光が、濡れた石畳の上で幾重にも反射し、幻想的な輝きを生み出している点です。グリムショーが好んで描いた「雨上がりの夜」という設定は、光と影のコントラストを最大限に引き立てるための、彼一流の工夫でもありました。

制作手法:グリムショーが用いたカメラ・オブスキュラやレンズによる投影という手法は、当時の画壇において正統とは見なされない技法でしたが、これによって彼は、正規の美術教育を受けずとも、驚くほど緻密で写実的な都市の夜景を描き出すことに成功しました。この独自の制作方法こそが、彼の作品に見られる、写真のようにきめ細かなディテールの源泉となっています。

来歴

《ボア・レーン、リーズ》には、複数の異なるバージョンが現存しており、その中でもリーズ・アート・ギャラリーが所蔵する一枚が、もっとも著名なバージョンとして知られています。同じ主題を描いた別バージョン《ランプの灯るボア・レーン》は、2017年にクリスティーズのオークションで15万6000ポンドで落札されており、今なおグリムショーの夜景画に対する高い需要がうかがえます。批評家クリストファー・ウッドは、著書『ヴィクトリア朝絵画』(1999年)の中で、グリムショーを「注目すべき、想像力豊かな画家」と評しています。

よくある誤解

誤解①「《ボア・レーン、リーズ》はグリムショーが手がけた唯一無二の一枚である」→ 実際は複数の異なるバージョンが現存している
一枚の完成された名画として紹介されがちですが、実際にはグリムショーはこの主題を複数回手がけており、リーズ・アート・ギャラリー所蔵のバージョンのほかにも、《ランプの灯るボア・レーン》など、複数の異なるバージョンが今日に伝わっています。

誤解②「グリムショーは正規の美術教育を受けた画家である」→ 実際は完全に独学であり、光学装置を用いて制作していた
これほど緻密で写実的な夜景表現から、正規の美術教育を受けた画家だと思われがちですが、実際にはグリムショーは美術教育をまったく受けておらず、自身の作図力や遠近法の不足を補うために、カメラ・オブスキュラやレンズを用いて風景を画面に投影するという、当時としては異例の手法を公然と用いていました。

FAQ

Q. 《ボア・レーン、リーズ》とはどんな作品ですか?
A. グリムショーが1881年に描いた油彩画で、雨に濡れたリーズの中心街ボア・レーンの夜景を、商店の明かりが石畳に反射する様子とともに描いています。リーズ・アート・ギャラリーが所蔵しています。

Q. グリムショーはどのような画家でしたか?
A. 鉄道会社の事務員から画家に転身した、完全に独学の画家です。カメラ・オブスキュラやレンズを用いて風景を画面に投影する手法を用いながら、夜の都市風景を主題とした作品を数多く手がけました。

Q. なぜボア・レーンという場所が選ばれたのですか?
A. ボア・レーンは1868年に大規模な拡幅工事が行われ、当時のヴィクトリア朝中産階級を惹きつける流行の最先端を行く商店が立ち並ぶ通りへと生まれ変わっており、都市の繁栄と近代化を象徴する場所であったためと考えられます。

Q. 《ボア・レーン、リーズ》はどこで見られますか?
A. イギリス・リーズのリーズ・アート・ギャラリーが所蔵しています。

まとめ

《ボア・レーン、リーズ》は、雨に濡れた石畳に商店の明かりが滲むように反射する、リーズの中心街の夜景を描いた作品でありながら、正規の美術教育を受けなかったグリムショーが、カメラ・オブスキュラという光学装置の力を借りながら、独学で確立した独自の画業を象徴する一枚です。140年以上を経た今もなお、この絵に描かれた雨上がりの夜の輝きは、当時のリーズの街角の空気を、そのまま封じ込めています。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次