そもそも、構造主義ってどういうこと?
いきなりですが、質問です。
「王様」というチェスの駒は、なぜ「王様」なのでしょうか?
木でできているから? いちばん背が高いから? ――違います。将棋の駒でも、木の代わりにペットボトルのキャップを置いても、「これが王様、これがそれ以外の駒とは違う動き方をする」というルールさえ守られていれば、そのキャップは立派に「王様」として機能します。
つまり、「王様」というものの正体は、駒そのものの材質や見た目ではなく、他の駒との「関係」や「違い」の中にあるということです。
構造主義が言いたいことは、実はこれとほとんど同じです。
私たちの考え方や、社会のルール、言葉の意味は、それ単体で決まっているのではなく、「他のものとの関係・違い」でできあがった見えない仕組み(=構造)によって、あらかじめ決められている。
これが構造主義のすべての出発点です。
具体例①:「赤」はなぜ「赤」なのか
信号の「赤」を思い浮かべてください。赤という色そのものに、生まれつき「止まれ」という意味が宿っているわけではありませんよね。
赤が「止まれ」を意味するのは、
- 青(進め)という色との違い
- 黄色(注意)という色との違い
という、他の色との関係の中に置かれているからです。もし世界に赤色しか存在しなかったら、「赤=止まれ」という意味そのものが成立しません。
言葉もまったく同じです。「犬」という単語が「犬」を意味するのは、「犬」という音や文字自体に犬らしさが宿っているからではなく、「猫」「狼」「狐」といった似ているけれど違う言葉たちとの関係の中で、初めて意味を持つのです。
このことを最初に明らかにしたのが、スイスの言語学者フェルディナン・ド・ソシュールでした。
具体例②:「よそ者」を家族に迎える謎のルール
構造主義を人類学(世界のいろいろな民族の暮らしを研究する学問)にまで広げたのが、フランスの学者クロード・レヴィ=ストロースです。
でも彼が見つけたのは、驚くべきことに、
「自分の集団の中だけで結婚を済ませず、女性を『よその集団』に嫁に出すことで、集団同士が仲良くなる(同盟を結ぶ)」
という、どの民族にも共通する見えない仕組みでした。
誰かが「よし、これで平和を築こう」と話し合って決めたわけではありません。それぞれの民族の人たちは、自分たちが暮らしてきた土地の言葉やしきたりの中で、無意識のうちにこの同じパターンを「演じて」いたのです。
これが構造主義の言う「構造」の正体です。自分では気づいていないけれど、実は皆が同じ見えない仕組みに従って動いている、ということですね。
つまり、こういうこと
ここまでをひとことでまとめると――
「自分の意志で自由に考えたり、選んだりしている」と思っていることの多くは、実は本人も気づいていない『言葉のルール』や『社会の仕組み』によって、あらかじめ用意された選択肢の中から選ばされているだけなのかもしれない。
これが構造主義の主張です。
なぜこの考え方が「事件」だったのか
これがなぜ大騒ぎになったかというと、当時のフランスでは「人間は自由な意志で、自分の人生を選び取っていく主人公だ」という実存主義という考え方(哲学者サルトルが有名)が大人気だったからです。
そこにレヴィ=ストロースたちが現れて、
「いやいや、あなたが『自由に選んでいる』と思っているその選択自体、あなたが生まれる前から存在していた言葉や社会の仕組みに、実はもう決められているんですよ」
と言い出したわけです。「人間が主人公」という考え方に、真っ向から冷や水を浴びせるような、かなり挑発的な主張でした。
よくある勘違い
「構造主義=個人には自由なんて一切ない、という思想」ではありません。
構造主義が言っているのは、「あなたという個人が存在しない」という話ではなく、「あなたが当たり前だと思っている考え方や選択肢そのものが、実は見えない構造によって形作られている」という話です。個人の存在そのものを否定しているわけではなく、その個人がなぜそう考え、そう行動するのかを、目に見えない構造という視点から説明しようとしているのです。
今の生活の中にもある「構造主義的な見方」
実はこの考え方、けっこう身近なところにもあります。
- SNSで「バズる投稿」には、なんとなく共通のパターンがある(誰も決めたわけではないのに)
- 昔話には、国が違っても「主人公が試練を乗り越えて成長する」という似たパターンがよく出てくる
- AI(機械学習)が言葉の意味を理解するとき、その単語単体ではなく「他の単語との距離や関係」で意味を捉えている
これらはすべて、「意味やパターンは、単体の中にではなく、関係や差異の中に宿る」という、構造主義とよく似た発想です。
まとめ
構造主義とは、ひとことで言えば――
「あなたが自分で自由に考えていると思っていることの裏側には、あなた自身も気づいていない『関係の仕組み』が働いている」
という考え方です。チェスの駒や信号の色、世界中の結婚のルールに共通するパターンのように、「意味は、単体にではなく、他との関係の中にある」――このシンプルな気づきが、20世紀の学問の見方を大きく変えることになったのです。

